NisekoSunRise

ニセコサンライズ
自然生態系

植生

昭和54年調査の現存植生図によると、羊蹄山麓周辺の植生はおおよそ次のようになっています。平地部は市街地を除き、その多くが畑地で、倶知安の一部と蘭越では水田が多くの面積を占めています。標高が低い山地部分ではエゾイタヤシナノキ群落がその殆どを占めており、羊蹄山とニセコ連峰だけは特別な植生が広がっています。

羊蹄山の植生

羊蹄山頂の高山帯には数々の貴重な高山植物が見られるので、国の天然記念物に指定されています。羊蹄山産の植物の種類は370余種に達します。現存植生図によると麓から標高700m付近まではエゾイタヤ―シナノキ群落、標高700mから1100m付近まではエゾマツ―ダケカンバ群落、1100mから1500m付近まではササ―ダケカンバ群落、1500m以上の場所ではコケモモ―ハイマツ群落、山頂付近と山頂火口内は高山ハイデ及び風衝草原となっています。さらに詳しく見てみると、山頂付近の高山帯は、生育環境の変化に応じて次のような群落が見られます。

岩生植物群落

噴火口東側の溶岩地帯は固着地衣類のほか、イワヒゲ、コメバツガザクラ、コケモモ、イワウメ、イワベンケイ、ミヤマウシノケグサなどが岩壁に着生していて特異な群落をつくっています。

乾生植物群落

山頂の尾根や噴火口内の砂礫地に形成されるまばらな群落で、イワブクロ、メアカンキンバイ、イワギキョウ、ウラジロタデ、ヒメイワタデ、タカネオミナエシ、キクバクワガタ、タカネキタアザミ、オノエリンドウ、リンネソウ、ミヤマコウボウなどが主な種類です。

雪田植物群落

噴火口内や窪地のような冬季大量の雪が吹きだまるところで、安定した肥沃な適潤地に発達する群落で、7月になるとミヤマキンバイ、チシマフウロ、イワオトギリ、イブキゼリ、エゾオヤマリンドウ、エゾノツガザクラ、コガネギク、オダサムタンポポ、ミヤマヌカボ、コメススキ、ミヤマクロスゲ、リシリスゲ、タカネスズメノヒエなどが一斉に花を開き、美しいお花畑になります。

高茎草本群落

傾斜のややゆるやかな斜面や浅く谷間状に窪んだ肥沃な適潤地に成立する草丈の高い群落で、上層はチシマアザミ、オニシモツケ、アマニュウ、エゾニュウ、オオカサモチ、ミヤマセンキュウ、エゾゼンテイカ、ヨブスマソウ、下層はイブキゼリ、カラマツソウ、シラネアオイ、クルマユリ、ヒメタケシマラン、ミヤマオダマキ、アラシグサ、エゾノイワハタザオ、タカネノガリヤスなどで構成されています。

常緑低木群落

砂礫地帯の安定した傾斜の緩慢な場所にはエゾイソツツジやコケモモが、湿潤な場所にはキバナシャクナゲが群落を作っています。落葉低木群落噴火口内壁や窪地の風当たりの少ない地帯に発達します。ミヤマハンノキ、ウラジロナナカマド、ダケカンバ、マルバヤナギ、エゾミヤマヤナギ、エゾノマルバシモツケ、ウコンウツギ、オオバスノキ、クロマメノキ、エゾクロウスゴ、イワツツジなどが主な種類です。

針葉低木群落

ハイマツが主な構成種で山頂一帯に不連続に分布しています。ササ群落山頂付近の北西及び南斜面の安定地には、草丈が矮小になったネマガリタケが群生しています。湿生植物群落羊蹄山ではごく狭い地域に限られますが、星が池周辺や薬草が原の湿潤地に見られ、イワイチョウやウメバチソウ、ウスバスミレなどが主な種類です。

水中植物群落

星が池の小さな水溜りのような池に、エゾホソイがただ一種類だけの群落をつくっています。

ニセコ連峰(イワオヌプリ火山群)の植生

現存植生図によると麓から標高800m付近までは羊蹄山と同じくエゾイタヤシナノキ群落ですが、標高800m以上ではササダケカンバ群落とササ自然草原が斑状に混在し分布しています。また、山頂付近にはコケモモハイマツ群落、高山ハイデ及び風衝草原などが見られ、散在する湖沼や高層湿原の付近ではツルコケモモミズゴケクラス、ヌマガヤオーダーなどの植生となっています。イワオヌプリ火山群の山麓や山腹には湖沼や高層湿原が散在しているので、水中植物や湿生植物の種類に富んでいます。それでは植生を詳しく見てみましょう。ニセコアンヌプリ山麓から中腹900m付近までは草丈2mを超えるネマガリタケが著しく群生し、この中にダケカンバやナナカマドなどが散生していますが、樹種はさほど多くはありません。ワイスホルンも同様です。一方、ニセコアンヌプリと対峙しているイワオヌプリは東方および北方斜面とそれに続く山麓は植物の生育が良好ですが、南方と西方の斜面の土壌は多量の硫黄を含んでいるので、植物はほとんど生育していません。ニセコアンヌプリ、イワオヌプリ、ワイスホルンはいずれも800m前後で高木限界に達していますが、常緑樹のエゾマツやトドマツの天然林がない原因として、ネマガリタケの密生と往時山火があったことが考えられます。イワオヌプリ火山郡中、ニセコアンヌプリの海抜400mから上に産するシダ植物以上の植物の種類は、約280種で、このうち羊蹄山には産しない種類もかなり多く、40余種にも達します。逆に羊蹄山に産し、イワオヌプリ、ニセコアンヌプリ、チセヌプリに産しない植物は約30種ほどです。

帰化植物

本来の自生地から人間の媒介によって移動し、その地に自生するようになった外来の植物を帰化植物と呼びます。ここで見られる主な帰化植物は、メマツヨイグサ、ビロードモウズイカ、オオハンゴンソウ、アラゲハンゴンソウ、タンポポモドキ、コウリンタンポポ、キバナコウリンタンポポ、アメリカオニアザミ、エゾノキツネアザミ、ヒメジョオン、キクイモ、キクニガナ、ユウゼンギク、オオアワダチソウなどです。

獣類

羊蹄山麓はかつて鬱蒼とした原生林に覆われていましたが、開発の進んだ現在、平地部は農業に利用されているために低地の自然林は意外と残されていません。そのため野生動物たちの生息場所は、山が中心となっています。現在、生息しているとされる野生動物は、ヒグマ、エゾリス、エゾシマリス、キタキツネ、エゾタヌキ、エゾクロテン、エゾユキウサギ、エゾヤチネズミ、エゾアカネズミ、エゾトガリネズミ、イタチ、ホンドテン、イイズナ、エゾモモンガ、コウモリ、ミンク、キテン、オコジョ(エゾイタチ)、他にネズミ類、トガリネズミ類、トカゲ類、カナヘビ類、ヘビ類などです。エゾシカは過去に生息していましたが、明治期の全道的に生息数が激減した時から見られなくなりました。ミンクやイタチは本来この地にはいなかった動物で、人の手によって持ち込まれた外来種です。羊蹄山麓にヒグマはいないという話も聞かれますが、かつてはかなりの出没がありました。開発とともにヒグマの行動圏が山奥へと後退したことに間違いはありませんが、他の場所には全く出没しないということではありませんので、山や森へ入るときには注意が必要です。ヒグマは本来臆病で、植物や魚などを食べる雑食性の動物で、特別な理由がなければ人を襲うことはありません。小熊を守ろうとする場合、水場や食べ物を奪われると感じたとき、突然の遭遇で驚いたときなどが危険です。鈴や声を出すなどして人間の存在を知らせること、出会ってしまったときには静かに少しずつその場を離れるようにしましょう。

豊かな森の多い羊蹄山周辺ですが、冬の寒さと豪雪のためか、春に訪れて繁殖し夏から秋には去ってしまう夏鳥と、春と秋の渡りの時期に通過する旅鳥が多く見られます。観察される鳥の種類としては、ウグイス、モズ、キジバト、オシドリ、アオバト、ツツドリ、ノビタキ、オオルリ、コルリ、カッコウなどが夏鳥として見られ、カイツブリ、シノリガモ、カワカイサ、トモエガモなどのカモ類が冬鳥として多く見られます。その他にも、近年では観察することが少なく珍しい鳥となったものとして、クマゲラ、アカショウビン、カワセミ、ヤマセミなどが生息しています。

昆虫

羊蹄山の山頂付近のガレ場にはダイセツオサムシが生息しています。ダイセツオサムシはここと大雪山の山頂付近のみに隔離されて分布している昆虫で氷河期の生き残りと言われています。かつて氷河期には北海道全体が高山の山頂のような気候で、広く分布していたダイセツオサムシが、気温の上昇とともに羊蹄山と大雪山の頂上へと避難していったと考えられています。このほか、ダイセツモリヒラタゴミムシ、ダイセツマルトゲムシ、アラコガネコメツキ、チビヒサゴコメツキ、フトミズギワコメツキ、キソヤマゾウムシなどの甲虫類、タカナハマキ、タカネナガバヒメハマキ、ミヤマヤナギヒメハマキ、ソウンクロオビナミシャク、アルプスヤガ、アルプスギンウワバなどの蛾のほか、数多くの昆虫が生息しており、これらは大雪山や道内の高山帯にも生息する昆虫たちです。羊蹄山は独立峰で、麓から山頂までがいくつかの植生に分類されますが、ある標高の特定の環境にのみ生息する昆虫が少なくなく、近縁な種でも低地と高地ですみ分けていることも多いようです。麓付近に広がる広大な原生林は様々な植物が見られ、数多くの昆虫が生息していると考えられますが、未だ完全なことはわかっておらず、まだまだ未知の山ともいえます。一方でニセコ連峰は、数々の高層湿原や湖沼があり、多くの水生昆虫が生息しています。トンボ類ではアオイトトンボ、オオルリボシヤンマ、カオジロトンボ、アキアカネなどが確認されています。カオジロトンボは道内での南限として記録されています。ニセコ山系はササの単純な植生が広がっているところも多く、昆虫類も数が少ないのではないかとも考えられますが、羊蹄山同様にまだまだ未知の部分が多く、今後、様々な種の昆虫が発見されていくと思われます。
inserted by FC2 system